IAB Direct Brand Summit 2019

Hironori Iwasaki 岩嵜博論
7 min readDec 15, 2019

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11月にNew Yorkで開催されたIAB (Interactive Advertising Bureau)のD2C/DNVB関連カンファレンス、Direct Brand Sumittに参加してきた。IABはもともとインターネット広告の団体で、年会複数回のテーマ別カンファレンスを実施している。Direct Brand SumittはD2C/DNVBの潮流を受けて昨年初めて開催され今年が2回目となる。
http://www.directbrandsummit.com/

IABではD2C/DNVBを総称してDirect Brandと呼んでいる。流通を経由せずブランドと顧客がブランド独自の店舗やECでつながるブランドビジネスのことを指す。IABでは、250 Direct Brands to WatchというDirect Brandも発表している。この中にはまだ日本にも知られていないブランドもたくさんあり、D2C/DNVBの傾向を知るための大きな参考になる。
https://www2.iab.com/iab250-2019/

カンファレンスのプラチナスポンサーは、Googleとhulu。その他、メディア関連の企業のスポンサーが目立つ。米国市場を中心にDirect Brandがブランドビジネスの一つの在り方として確立しつつある中で、顧客獲得のためのメディアやツールも整備が進んでいる。IABはもともとインターネット広告の団体ということもあり、本カンファレンスでもこうしたメディア活用の議論が多くなされていた。

IABでは203のDirect Brandのファウンダーおよびシニアメンバーに対して調査を行っており、カンファレンスでも調査結果の一部が紹介されていた。調査対象のブランドの平均売上は2020年予測で$23.3M、経年でみても売上の規模は順調に拡大。90%が黒字で黒字化までにかかった期間は3年以内、粗利率は平均47%だという。D2C/DNVBは規模は中規模だが、効率がよいビジネスだということがわかる。

はっとさせられたのはこのチャート。77%の対象者が6ヶ月以内に製品をローンチしている。口頭で補足があったが、通常のブランドの製品ローンチは22ヶ月かかるという。

もう一つ興味深かったのは、このチャート。プロダクトそのものよりも、カスタマーサービスがビジネスの機能として重要だと答えた回答者が多い。カスタマーサービスの重要性は他のプレゼンテーションの中でも散見された。

なお、この調査のレポートは「Disruptor Brands: Founders Benchmark Study」として公開されている。
https://www.iab.com/insights/founders-benchmark-2019/

プレゼンテーションセッションの中からいくつか印象に残るものを挙げておきたい。

The Odd Couple: An Unlikely Retail Duo Tackles Direct-to-Consumer and Brick-and-Mortar

CasperなどのD2Cマットレスブランドの台頭で経営破綻したマットレス小売大手のMatress Firmが、Caperの競合であるD2CブランドPurpleと実は協業しているというセッション。Purpleの製品をMattress Firmの小売チャネルで売るようになったという。D2CブランドはECなどのダイレクトチャネルだけでは成長が鈍化するため、あるタイミングで大手小売での販売を始める傾向がある。より大きな成長を遂げたいPurpleと、大規模な店舗や営業パーソン網を持つMatress Firmがタッグを組むというD2Cブランドと古典的な小売業の新しい関係性を象徴するケースだ。

https://www.mattressfirm.com/
https://purple.com/

Collaboration: Hatching New Partnerships between Traditional and Challenger Brands

新興勢力と老舗の協業としてはこちらの取組みも興味深い。マタニティブランドHATCHと老舗アパレルブランドJ.Crewのコラボレーションセッション。HATCHは妊娠期間中の女性に向けたアパレルブランド。オンラインに加えてマンハッタンに店舗も有する。J.Crewはこれまでも外部のブランドとのコラボレーションを行ってきたが、より魅力的なプロダクトとブランドを展開するD2Cブランドともコラボレーションを始めているのが印象的だ。

https://www.hatchcollection.com/

The Industry’s Next Big Transformation / Accelerating Growth through Partnerships

D2Cビジネスが増えることで、これらを集約したり支援したりするエコシステム型の取組みも進展し始めている。the dtx companyは元AOLのCEO、Tim Armstrong氏が創業したD2Cブランド支援エコシステムビジネス。複数のブランドへの投資と支援を行っている。
この観点では、P&G Venturesとハンズオン支援型VCであるM13のコラボレーションも興味深い。P&Gの製品・技術リソースを用いて、更年期の女性向けの製品ブランドKindraを新たにローンチ。外部から起業家を集め、VCが資金提供とハンズオン支援を行っている。

https://ourkindra.com/
https://pgventuresstudio.com/
https://www.m13.co/launchpad-companies/kindra/

最後にIAB会長のクロージングスピーチからいくつか抜粋。イノベーションはもはやR&Dだけのものではない。新しい生活や価値を提案するブランドビジネスからイノベーティブなビジネスが生まれつつある。そういう観点では、テクノロジーよりも文化・カルチャーが重要になっている。
Direct Brandの潮流は、価値あるブランドを誰もが作れる時代であることを表している。Direct Brandビジネスのためには、多様なコラボレーションがポイントになる。まさにエコシステムな論点は今後も重要になりそうだ。

空き時間の合間にタムズスクエアの方に行ってみたら、D2Cオーラルケアブランドのquipの屋外広告が大々的に展開されていた。オーラルケア市場の一旦を担っていきたいという意気込みが明確に感じられる。こうした新興ブランドがD2C/DNVBスタイルで生まれ、市場の中である一定の存在感を示すようになる、そんなブランドビジネスの未来が日本に訪れる日も近いのかもしれない。

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Hironori Iwasaki 岩嵜博論
Hironori Iwasaki 岩嵜博論

Written by Hironori Iwasaki 岩嵜博論

武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授/ビジネスデザイナー/ビジネス✕デザインのハイブリッドバックグラウンド/著書・共著に『デザインとビジネス 創造性を仕事に活かすためのブックガイド』『パーパス 「意義化」する経済とその先』『機会発見――生活者起点で市場をつくる』など