Cannes Lions Creative eCommerce部門の審査からの示唆
光栄なことに世界最大のクリエイティブイベントの一つであるCannnes Lionsの審査員を拝命し6月に審査を終えた。担当部門はCreative eCommerce部門。世界中から集まる8名の審査員の共に一週間にわたり、早朝から始まるオンライン審査会に臨んだ。
昨年はパンデミックの影響を受けてCannes Lionsはアワードも含めて中止。今年はリアル開催こそできなかったが、オンライン審査によってアワードが復活。初夏の南仏でカンヌ名物のロゼワインを飲みながら、世界のクリエイティブリーダーたちと夜な夜な議論する機会がなく残念といえば残念だったが、早朝の爽やかな空気の中での審査もまた格別だった。
担当したCreative eCommerce部門は近年設定されたまだ歴史の浅いカテゴリーだ。その名の通り、eCommerceに関わるエントリーが世界中から集まる。今回の審査では2020年と2021年のそれぞれの年のエントリーから二つのグランプリが選出された。
グランプリの一つである「Tienda Cerca」が興味深かった。このケースは、ビール世界最大手のABInbevが、パンデミック危機で窮地に陥った小規模店舗を助けるために、ECとデリバリーを短期間に整備したというものだ。大企業が、本来であれば行政などが整備してもおかしくないパブリックなインフラを整備し、小さな小売店との共存共栄を図ろうとしたことがとても印象的だ。
実は今回のCreative eCommerce部門ではこうした企業がパブリックなインフラとなるというものが他にもいくつか見られた。例えば、ゴールドに輝いた「Roadside Market」も、ローカルショップを助けるためにソーシャル型のナビゲーションアプリであるWazeにショップのロケーションを掲出するというものだ。これはクレジットカード大手のMastercardがサービス主体となっている。
『パーパス 「意義化」する経済とその先』の中でも、行政や政府に対する不審の反面、企業に公共的なスタンスを期待する傾向が高まっていることを紹介した。こうしたケースはまさにそうした公共としての企業の活動を象徴するものだ。重要なステイクホルダーの一員である、サプライヤーと地域コミュニティを起点としたステイクホルダー主義的な企業活動だと言える。
今回のCreative eCommerce部門のエントリー作品はほぼ全てがパンデミックの影響下にある活動だったと言っても過言ではない。パンデミック危機が示したのは、社会インフラとしてのeCommerceのあり方だった。パブリック化する企業の姿は今後もこの領域において発展するのではないだろうか。今後の動向が楽しみだ。
9月からCannes Lionsの日本公式サイトで審査員によるレクチャーの動画配信が始まった。私を含めた日本から参加した審査員11人による各部門の解説が無料で見れるようだ。他の審査員の方の動画も拝見したが、講義スタイルが人それぞれで面白い。関心ある方はぜひ!