研究室で取り組んでいること 2022/5

私がずっと取り組んでいることは実践とリサーチの往復だと思っています。企業に在籍していた時からこの往復をしてきました。リサーチによって兆し的に生じている事象を捉え、明示知にしながら実践につなげていくというアプローチです。

例えばデザイン思考とその後呼ばれるようになったことへの取り組みもそうでした。最初にリサーチを始めたのは2007年頃でした。日本では広義のデザインの方法論のビジネスへの活用はほとんど議論されていなかったので、当時としてはリサーチ的な取り組みだったと思います。

企業に在籍していたときは、両方やっていたとは言えやはり実践の比重が高かったと思います。大学に移ってから、このリサーチと実践のバランスが理想に近づいてきました。質の高い実践を行うためには、腰を据えたリサーチが必要です。

幸い、大学院生を中心にリサーチ志向と実践志向の両方を兼ね備えたメンバーが研究室に集まってきてくれています。今は昨年研究室に合流した修士の2年生が中心ですが、それでも多様性と深さという点でいいスタートが切れたと思います。

これから大学院や学部への進学を検討される方もいると思うので、その参考になればと思い、ちょうど学内で資料をまとめるきっかけもあったので、今研究室で取り組んでいるテーマを紹介したいと思います。

現在研究室では、ストラテジックデザイン/ビジネスデザインを専門領域として掲げながら、社会科学、デザイン学、経営学が交差する領域においてリサーチを行っています。ストラテジックデザインとは何かについてはいろんな定義がありますが、今のところ(広義の)デザイン方法論をビジネスや公共セクターなどの多様な領域に活用することとしています。

以下に挙げるテーマも一見多岐にわたりますが、通底しているのはデザイン方法論の活用という点だと思います。多様な領域でデザイン方法論が活用されることで、デザイン方法論自体も発展していくという関係性にあるのではと考えています。

1.ストラテジックデザイン

最初に挙げるのは、デザイン方法論のビジネスにおける活用に関する研究です。基本的なテーマとしていくつかの研究トピックがあります。この領域は、人間中心デザインやデザイン思考と呼ばれる考え方がある程度社会に浸透していると思いますが、リサーチの領域ではこれらの考え方を批判的に捉え発展させる試みがなされています。

研究室において、人間中心主義を超えた意味的価値創出のための方法論の研究や、デザイン人材の企業組織における役割の研究、リモートワーク時代のワークプレイスに関する研究などを進めています。

2021年度に大日本印刷と本のビジネスに関する共同研究を実施した際の展示

2.サステナブルデザイン/サーキュラーデザイン

次に、サステナブル社会を実現するためのリサーチと社会モデルのデザインに関する研究です。研究室を始めて、修士の学生に集まってもらって意外と層が厚くなってきているのがサステナブル領域の研究です。サステナブル領域はまず自然科学における研究から始まりましたが、社会科学でも研究が進んでいます。

研究室でも同様に人類学などの社会科学的方法論を活用してこのテーマにアプローチしています。取り組み始めてみると、社会科学、デザイン学、経営学という研究室のアプローチとも親和性が高いことがわかってきました。

現在は、地方自治体をフィールドにした循環社会のエスノグラフィと循環型地域社会のデザインの研究、量り売り小売店をフィールドとしたサーキュラーブランドのサービスデザイン、コミュニティコンポストをフィールドにしたエスノグラフィなどに取り組んでいます。

先日フィールドワークで見かけた昭和22年に購入された現役の農機具

3.政策デザイン

最後は、政策立案プロセスにおけるデザイン方法の活用に関する研究です。政策や行政の課題が複雑化する中で、厄介な問題(wicked problem)に対峙するというデザインの本質との親和性で、政策におけるデザイン方法論活用の研究と実践が世界で進んでいます。

研究室でもこの領域に重点的に取り組んでいます。きっかけになったのは、シカゴのデザインスクールに留学していた時に、パブリックセクターのデザインプロジェクトをいくつか経験したことでした。武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科では、都心立地の市ヶ谷キャンパスの特性を活かし「社会実装」をコンセプトの一つに掲げています。まさにこの姿がシカゴのIIT Institute of Designと重なったのでした。

現在研究室では、企業との共同研究なども含めて、基礎自治体におけるデザイン方法論の活用に関する定量調査、政策立案におけるデザイン方法論活用に関する海外事例調査、政策立案ツールのデザインとプロトタイプによる実証、そして、若者の政治参加を促すデザインの研究と実践といったテーマに取り組んでいます。

先日ヒアリング調査を実施させていただいた滋賀県庁の歴史ある会議室

研究室の大きな方針は、デザインの方法論のビジネスや社会における活用の可能性探索です。ビジネスにおいては価値創造やその先にあるイノベーション、あるいはデザイン職能のビジネス組織における新しいあり方などを研究しています。社会においては、循環型社会を中心にしたサステナブル社会、そしてそれらも包含する形で政策立案や行政におけるデザインの貢献に関する研究を進めています。

まだまだリサーチラボとしての活動は始まったばかりですが、こうしたテーマに関心がある方々がいらしゃればいろんな形でご一緒できればと思います。

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Hironori Iwasaki 岩嵜博論
Hironori Iwasaki 岩嵜博論

Written by Hironori Iwasaki 岩嵜博論

武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授/ビジネスデザイナー/ビジネス✕デザインのハイブリッドバックグラウンド/著書・共著に『デザインとビジネス 創造性を仕事に活かすためのブックガイド』『パーパス 「意義化」する経済とその先』『機会発見――生活者起点で市場をつくる』など

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